私には、勝手に師匠と思っている建築家がいます。
イタリアの建築家、カルロ・スカルパ - Carlo Scarpa。

彼の存在を知ったのは、大学で建築を学び始めた頃。
講義や作品集を通して出会ったその建築は、それまで見てきたものとは、どこか違っていました。
独特な空間の構成、素材の選び方、細部まで考え抜かれたデザイン。
特にVenezia ヴェネツィアのオリベッティ・ショールームやブリオン家の墓地には、
すっかり心を奪われてしまいました。

学生時代、都市計画や大規模な再開発にも面白さを感じていました。
でも、次第に惹かれていったのは、一人の建築家の頭の中で描かれたものが、
空間の隅々まで見えてくるような建築でした。
スカルパのデザインを、そのまま真似したかったわけではありません。
彼の建築には、イタリアという土地の文化や歴史、素材、そして職人たちの技術が深く関わっている。
そんな建築が生まれる場所に身を置いてみたい。いつかイタリアへ渡り、そこで建築の仕事をしてみたい。
そんな思いが、少しずつ大きくなっていきました。
もし彼の事務所を訪ねることができたなら、きっとその扉を叩いていたと思います。

そして、大学院修了後実際にイタリアへ渡って間もなく、Venezia ヴェネツィアへ向かいました。
目指すはもちろんオリベッティ・ショールーム、そしてヴェネツィア建築大学の入口。

作品集で何度も眺めたものが、目の前にある。
本で見たものと同じなのに、時間の経過を感じさせないほど新鮮でした。
美しい!

デザインもさることながら、素材の選び方や使い方、細部の一つひとつに目を奪われます。
何枚もの図面やスケッチ。その中で繰り返された試行錯誤が、目の前の建築に集約されている。
どうやってこの形を考えたのだろう。そして、どうやって実現させたのだろう。
描いた一本の線を現実の建築に変えていくには、職人の技術が欠かせません。
彼が職人たちとどんなやり取りを重ねて、これを実現したのか。
そんなことにも思いを巡らせていました。Verona ヴェローナで見た銀行の建築も忘れられません。
外から眺めただけでしたが、それでも十分でした。

「建築とは、こういうものなのか。」
そんな感覚を覚えたことを、今でも鮮明に記憶しています。

あれから随分と時間が経ちました。
それでも、カルロ・スカルパは今も私の中で、勝手に師匠のままです。